僕が目を覚ましたとき、既に夜は明けていた。
慌てて辺りを見回す。
そこは、いつも見慣れた部屋の中だった。
「あれ…………いつの間に家に?」
恐らく、綾さんがここまで運んできてくれたのだろう。
……後でお礼ぐらい言っておこうかな
と、上体を起こしたとき。
「おはよ! 零一君」
―――零君おはよう
「おはようございます……零一さん」
三人の声が聞こえる。
どうやら、澪ちゃんは無事だったみたいだだ。まずは一安心。
「ああ……おはよう………って!」
あくび混じりで挨拶しようとした僕は、次の瞬間思い切り腰を抜かした。
澪ちゃんは元通りの幽霊。まあ、これは別に問題ない。
問題は、真夜の方だ。
「あの……。どうかしたんですか?」
「な、な、何で………真夜ちゃんが幽霊に?」
そう。真夜の体が宙に浮いているのである。
呆然とする僕に、綾さんが代わりに説明し始めた。
「えっとね、この子、零一君を助けるために、あげちゃったのよ………自分の力」
「自分の力? どういうこと?」
「あのね、この子が元々持っていた……ペットからもらったって言う力を、全部零一君にあげちゃったみたいなの。それで、今度は幽霊になったってわけ」
「………結局、術は失敗したって事ですか?」
「ま、そう言うことになるね」
その言葉を聞いた瞬間、僕は目の前が真っ暗になるのを感じた。
何のことはない。真夜を助けようとしたのに、結局自分が助けられてしまったのだ。
余りにも情けない、最悪に限りなく近い結果を迎えてしまったのである。
「ご、ごめん!」
僕は真夜に深く土下座した。
「い、いいですよ。……私からしてみれば、こっちの方が良かったんですから」
「へ?」
思いもかけない真夜の言葉に、僕は顔を上げた。
「だって、私、今更人間に戻ったって、あんまりいいこと無いような気がしたんです。だったら、零一さんにしか見えない幽霊として生きてく方がいいなぁって思ったから………」
そう言うと、真夜は顔を真っ赤にした。
「嘘?」
僕は目をパチクリさせた。
「へー、真夜ちゃん、零一君のこと好きなんだ」
綾さんが茶化す。
その表情は、いたずらっ子そのものだった。でも、目は笑っていない。
「……………」
澪ちゃんは黙り込んだ。
だが、その表情は硬く、何か威圧感を感じる。
「どうするの、零一君?」
だが、僕にその声は届かなかった。
………澪ちゃんに、今度は真夜ちゃんか。幽霊に好かれやすいのかな………僕
嬉しいような、悲しいような、そんな複雑な気分の零一だった。