「陶軍の先陣、既に
『なっ!!!!?????』
その瞬間、確かに広間にいた全員の表情が凍りつきました。
鰐石は当時の山口の入り口ともいえる地点であり、そこを押さえられたという事はすぐにでもここ築山館に攻め込んでくると言う事でした。
「早過ぎる………早過ぎるぞ……」
冷泉様は苦々しく呟きました。
「御館様!」
「な、何じゃ!?」
「この築山館では危険すぎますゆえ、法泉寺にお移り下さい」
法泉寺は山口の一番奥にあり、険しい地形から要害となる物でした。
「やむを得ぬ………か」
義隆様を法泉寺に移す準備を整える最中、冷泉様は佐波新介(隆連)殿を呼び、
「新介、今すぐ三本松(津和野)の吉見三河守(正頼)殿のもとに行き、援軍を申し出て参れ」
「分かりました」
そう言うと、佐波殿は大広間を去りました。
――――――――数時間後………
(山口・法泉寺境内)
(さて、どうするべきか………)
実は陶軍の来襲の噂を聞きつけ動揺した兵の逃走が相次ぎ、六〇〇〇いた兵が三浦勢に見つかった時には既に三〇〇〇までに減っていたのです。
(とりあえずは津和野か豊前の杉殿の下へ逃れ、時を待ち反撃に移ることになるのか)
実は軍議の直前に自害を勧めたのですが、安富源内や公卿達の妄言を受け、逃げる事に方針は定まっていたのです。
(倅どもは無事に落ち延びておるだろうか…………)
「冷泉殿」
「ん?」
後から声をかけられ、冷泉様が振り向くと、そこには陶隆康殿がいました。
「此度はまことに申し訳ない」
「…………」
(………隆房殿のことか………)
「本来ならこういう時真っ先にお館様の元に駆けつけるべき物がこの醜態…………」
そう言う隆康殿の目に光る物がありました。
「お気に召されるな、今はお館様を落ち延びさせる事に集中させましょう」
「冷泉様、陶様、お館様がお呼びです」
と、二人の会話に割り込むように使者の声がしました。
「おぉこれは阿川殿、わざわざすまんな」
「いえ、某がここの指揮を執りますので急ぎお館様の下へ」
「うむ、では隆康殿参ろうか」
「はっ!」
そう言うと二人は本堂のほうへ向け歩き出しました。
が、その時隆康殿は気付いていました。
阿川殿の目が怪しい光を帯びていた事を………
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