〜第四章 山口・風雲 その弐〜


(山口・築山館)


「義隆様! ご決断を!」

義隆様はしばし呆然としておりましたが、

「わ、分かった。隆景、隆豊、兵を集めよ」

「ははっ!」

早速岡部・冷泉両将は兵を集めに部屋を飛び出しました。

(…………隆房が………)

まさか、大内家一の忠臣と思っていたはずの男の謀反の知らせに、義隆様は顔面を蒼白に染め、呆然としておりました。
―――八月二十八日―――


(周防・大内御堀)


「者共、山口は目の前じゃ! 気合を入れよ!」

防府から小鯖・御堀を通り鰐石から山口へと入る道。 その道を陶軍先鋒・三浦房清隊が通過していきます。

(………いよいよ大内も変わるときが来たか!)

これでようやく軟弱な時代は終わり、再びわれらの時代が来る。

三浦殿は自らの中の血が騒ぐのを感じました。

「房清様!」

家臣の一人が、三浦殿に声をかけました。

「何だ?」

「物見に出した者が戻ってまいりました」

「通せ」

そう言うと、後ろに控えていた男がひざまつくと、口を開きました。

「黒川隆像の手勢、山口に向かった模様!」

黒川隆像は陶峠を降りたところにある黒川郷(山口市黒川)を領している義隆様の近習の一人です。

(やはり黒川は御館様に付くか………まぁ、仕方が無いか)

そこへ別に物見に出した男が現れました。

「築山館におよそ三〇〇〇近くの兵が集まっておる模様! 冷泉・黒川・岡部らの馬印が見えまする!」

「さ、三〇〇〇だと!?」


(周防・荷卸峠)


一方、陶本隊は佐波郡と吉敷郡の境目である荷卸峠(におろしとうげ)を越えた辺りでした。

「そうか………三〇〇〇か……」

忍びからの報告を聞いた隆房様は瞑目しました。

(おそらく、冷泉が必死にかき集めたのだろう………)

冷泉様の実直そうな顔が浮かんできます。

「放っておけ。どうせ一晩経てば半分くらいに減っているであろう。このまま山口に侵入する!」

「ははっ! それと………築山館の一角に隆康様の軍旗もありました」

(隆康殿………)

陶隆康は隆房様の従兄弟です。

「隆康には悪いが、これも大内のためじゃ」


(周防・築山館)


「何とか兵は集まったみたいだな……」

隆豊様は滝のような汗を拭きながら、満足そうな表情を浮かべました。

(しかし、下野守(内藤興盛)殿は何ゆえ馳せ参じぬのじゃ……?)

義隆様は内藤家に使者を送り、出仕を求めるように命じておりましたが、全く反応がありません。

(やはり内藤・杉も陶殿にお味方したか………)

それどころか、小原・仁保・青景・貫・吉田といった連中……

かつて、「御館様と共に最期までついていく」と誓った連中は誰一人として姿を現しておりません。

(やはり奴らもか……)

「冷泉殿、軍議を始めますぞ」

近習の一人、天野隆良殿の声に。

「うむ」

隆豊様も大広間に向かいました。


「者ども、軍議じゃ!」

軍議が開かれました。

しかし、そこにあつまった将領はほとんど無く、近習衆以外には、阿川隆保様・陶隆康様・隆弘様親子以下、十指にも満たない数でした。

そもそも、大内家の武を担い、謀反に対しては真っ先に立ち向かうべきはずの隆房様が謀反を起こしたのです。

士気が上がるわけでもなく、重苦しい空気が立ち込めています。

そこに。

「お、御館様!」

更に絶望に叩き込まれる知らせが伝えられました。




………………続きをお聞きになりますか?………………



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