〜第一章.きっかけ 〜


天文二十年八月のある日のことでした。

周防高嶺城のとある小部屋で、二人の男が密談をしていました。

一人の名は大内義隆。前述のとおり、西国の太守です。

そしてもう一人の男の名は、青景越後守隆著(たかあきら)。大内家奉行人の一人です。

「御館様。お伝えしたいことがござります」

「なんじゃ一体。せっかく茶の湯を楽しもうとしておったのに………」

そうぼやく義隆様の表情はどんよりと曇っておりました。

「御館様! そのような温い事を言ってる場合ではありませんぞ!」

「分かった分かった。早く申せ」

義隆様は手をひらひらと振って先を促しました。

「…………陶隆房様、居城の富田若山城(山口県周南市)にて挙兵の準備を始めておる模様でござる」

「…………」

「このままでは、御館様もろとも山口の町も灰燼となってしまいまする。何卒ご決断を!」

血を吐くような青景様の言葉に、

「…………そんなわけあるまい。隆房は当家一の忠臣じゃ」

義隆様は顔色一つ変えずそう言ってのけました。

「し、しかし!」

なおも諫めようとする青景様の前に、一人の少年が立ちはだかりました。 「青景様、ご無礼でござろう」

「源内………!」

義隆様のお傍にくっ付いている美少年がにやりと笑いました。

彼の名は安富源内。義隆様寵愛の小姓ですが、最近では家臣の拝謁の可否まで源内の意向で決まるなど、彼を嫌うものは数多くいました。

「陶殿がそんな事する訳ないでありましょう。讒言となれば、青景様にも処罰があるかもしれませんぞ」

酷薄な笑みを浮かべる源内に、青景様は一瞬殺意を覚えました。

「その通りじゃ、隆著。話はこれで終わりじゃな?」

「え……あ……」

「よし、源内、能を見に行くぞ!」

そういうと義隆様は立ち上がりました。

「あ、御館様、お待ちを!」

「青景殿、しつこいですぞ!」

なおも義隆様を引きとめようとする青景様の額に、源内の扇子が襲いました。

「あ痛ッ!」

青景様がひるんだ間に、二方は部屋から出て行きました。


誰もいなくなった部屋の中、青景様は屈辱に身を震わせていました。

(………大内一門である吉見殿の諫言も、この隆著の諫言も聞かぬとは……大内家もこれで終わりか………)

その事件は瞬く間に大内領に広がっていきました………。



………………続きをお聞きになりますか?………………



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いや、ここまでにする