周防高嶺城のとある小部屋で、二人の男が密談をしていました。
一人の名は大内義隆。前述のとおり、西国の太守です。
そしてもう一人の男の名は、青景越後守隆著(たかあきら)。大内家奉行人の一人です。
「御館様。お伝えしたいことがござります」
「なんじゃ一体。せっかく茶の湯を楽しもうとしておったのに………」
そうぼやく義隆様の表情はどんよりと曇っておりました。
「御館様! そのような温い事を言ってる場合ではありませんぞ!」
「分かった分かった。早く申せ」
義隆様は手をひらひらと振って先を促しました。
「…………陶隆房様、居城の富田若山城(山口県周南市)にて挙兵の準備を始めておる模様でござる」
「…………」
「このままでは、御館様もろとも山口の町も灰燼となってしまいまする。何卒ご決断を!」
血を吐くような青景様の言葉に、
「…………そんなわけあるまい。隆房は当家一の忠臣じゃ」
義隆様は顔色一つ変えずそう言ってのけました。
「し、しかし!」
なおも諫めようとする青景様の前に、一人の少年が立ちはだかりました。 「青景様、ご無礼でござろう」
「源内………!」
義隆様のお傍にくっ付いている美少年がにやりと笑いました。
彼の名は安富源内。義隆様寵愛の小姓ですが、最近では家臣の拝謁の可否まで源内の意向で決まるなど、彼を嫌うものは数多くいました。
「陶殿がそんな事する訳ないでありましょう。讒言となれば、青景様にも処罰があるかもしれませんぞ」
酷薄な笑みを浮かべる源内に、青景様は一瞬殺意を覚えました。
「その通りじゃ、隆著。話はこれで終わりじゃな?」
「え……あ……」
「よし、源内、能を見に行くぞ!」
そういうと義隆様は立ち上がりました。
「あ、御館様、お待ちを!」
「青景殿、しつこいですぞ!」
なおも義隆様を引きとめようとする青景様の額に、源内の扇子が襲いました。
「あ痛ッ!」
青景様がひるんだ間に、二方は部屋から出て行きました。
誰もいなくなった部屋の中、青景様は屈辱に身を震わせていました。
(………大内一門である吉見殿の諫言も、この隆著の諫言も聞かぬとは……大内家もこれで終わりか………)
その事件は瞬く間に大内領に広がっていきました………。