〜第三章 底なし沼から去るとき〜



そのわずかに光るものそれは銀だった。しかもまだ有りそうな気がする。

本当にわずかな光だったので周りのものに気づかれることは無かった。豊国はそれを「希望の光」と思った。いや、そう確信したに違いない。

するとその時鉱山の男たちに意外な知らせが飛び込んできた。

それは「織田信長が本能寺で明智光秀に殺された。」というものだった。


豊国は仕事を終えると真っ先に、七助の家へと向かった。

「詮兵衛達は動揺しているに違いない。この機会を逃すと次は無いだろう。さてどうする今こそ本当の力を出すとき・・・・」

豊国は此処に来てから確実に成長していた。彼には、山名家代々に受け継ぐ「血」が漲ろうとしていた。


「えっ、明日にでも逃亡!?」

「そうだ。だからお主にも協力して欲しい。やってくれるな。」

「勿論でございます。私の命は豊国様にお預けしたのですから。」

七助もまたあるものが芽生えようとしていた。


翌日・・・・・

豊国は昨日見つけた銀を取り出した。これはすごい思っていた以上にある。これだけあればみんな助かるのではないか。というぐらいに・・・

係「おお!これは凄い!大量の銀じゃ。ああ、あとこれだけ多いと7割ぐらいお上に納めて貰うからな。」

ふざけたことをいうな。豊国は心の中でそう思った。

もう腹は決まっていた。このときの豊国は自分とは違う何かがいたに違いない。

係「!!!!」

豊国は予め持っていた剣を係の首に向かって刺した。勿論剣は山名家代々の血を受け継いだあの剣である。

「・・・・・・・・・・・・・」

男たちは突然の出来事にただ呆然とするのみだった。

豊国はすかさず係りの持っていた銅鑼を大きくたたき始めた。


すると入り口から馬に乗ったある男が来た。七助である。

豊国の作戦は銅鑼の音と共に七助が入って脱出するというものだった。

「待て!逃さんぞ!」

そう言いながら追いかけてきたのは詮兵衛とその部下たちだった。

豊国と駆けつけた七助はあっという間に囲まれてしまった。万事休すと思ったその時!

「ヒヒヒーン!!!」

馬は慌てて走り出した。豊国が馬の体に剣を刺したのだ。

こうして、豊国と七助は無事生野銀山を脱出した。


「ふう・・・・・」

二人はほぼ同時にため息をついた。ほっとしたのだろう。すると七助が何かに気付いた。

「剣が出ておりますぞ。」

「あ?ああ・・・・」

豊国は慌てて剣を鞘に戻した。

「ところで、銀のほうは取れたのですか?」

七助がそう聞くと豊国は得意げになったこう答えた。

「銀はもう取っているんだよ。ここに来て一ヶ月くらいにね。今日あった銀はそのときの銀の一部だよ。いや実に莫大な量だな。」

「なるほど。」

二人はゆっくりと進み始めている。

それは目的地に向かうのと自分自身の理想像を追い求めるために進んでいる・・・・・・


二人は確実に成長していた。そしてそんな二人を応援するかのように夕日が燦燦と輝いていた。


(第三章 「底なし沼から去るとき」 完)



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