〜第二章 底なし沼にある一筋の光〜



豊国が山に入ってからもう二週間がたとうとしている。

しかし豊国は銀を見つけるどころか、仕事の要領をつかむのもままならない状態だった。

「はぁ〜」

豊国はいつしかため息をつく数が多くなっていることに気付いた。

豊国は悩んでいたのである。「これからどうすればいいのか」と。

つまり豊国は未来に希望を持てていなかったのである。

そりゃそうだろう。人間たて続けに悪いことがあると誰でも暗くなるものだ。

しかし鉱山の男たちはそんな豊国でも容赦しなかった。

「駄目浪人。」や「俺たちのほうがすごい」などと豊国に非難中傷を浴びせたのである。

豊国は気分一新を図ろうと山を降り、町へ向かった。


まちについた豊国は薬などの日用品を買い、山に戻ることした。

しかし、辺りはすっかり暗くなり、豊国は近くの民家に泊めてもらうことにした。


「おおこれはお武家様どうぞお入りください。」

そう言って快く豊国を出迎えたのが、この民家の主、七助だった。

そして、豊国は料理を馳走しそろそろ寝ようとしたところ、七助があるものに気付いたのである。


「こ、これは・・・・」

「ん?この刀がどうかなされたのか?」

「どっ、泥棒め!」

七助は短剣を豊国に向けた。

その手はわなわなと震えている。

「そっ、その剣をどこで盗んだ!」

「盗んでなんかおらん。これはわしのものだ。」

「うそをつけ!そんなものお前が持っているはずがない!」

この言葉で豊国はピンときた。

そしてその刀の鞘を抜いて、七助に見せたのである。

「この刀は亡き父の形見じゃ。山名家代々の血を受け継いだこの名刀・・・・・・」

「ま・まさかあなたは・・・・・・・・山名豊国様?」


豊国はこれまでの事情を七助に話した。すると七助は豊国に頭を下げた。

「申し訳ございませぬ!!拙者、昔山名家の足軽となっていたのです。それが戦のどさくさにまぎれて・・・・」

「逃げ出したのか。」

「はい。」

さらに七助は頭を下げ尚、こう言ったのである。

「過去の罪は償いますゆえ、どうかそれがしを取り立ててくだされ!!!」

七助は大粒の涙を流している。

そして、豊国もまたこう言った。

「もちろんじゃ。わしはそちに逢えてとても嬉しい。」

豊国もまた涙を流した。


それからの豊国は人が変わったように、精を出して働いた。

そのことで鉱山仲間からも認められるようになった。


そして月日はどんどん流れていった・・・・

豊国が山に入ってから二ヶ月がたとうとしたある日、仲間からこんな相談を受けた。

「無二斉。ちょっと話があるんだ。」

「何だ?相談っていうのは?」

「俺と一緒に、逃げないか?」

「は?」

「頼む俺に協力してくれ!!」

「わしは銀を見つけるためにここにきたのだ。なぜ止めなければならん。」

そういうと男はあきらめたような顔をして最後にこういった。

「わかった。」


翌日・・・・・・・・

脱走を企てた、二人が捕まったという知らせが入った。

その中には昨日豊国に脱走を持ちかけた男も一緒だった。

鉱山の男たちは一斉に集められた。

「よし、そこのお前!」

「はい!」

詮兵衛はもう片方の男に、ある刑を言い渡した。

「お前は百叩きの刑に処す。」

「ありがとうございまする!」

これを聞いて豊国は不思議に思った。

「なぜあの男は礼を言うのだ?百叩きの刑は重いはずだが・・・・」

ついに百叩きの刑が実行された。

しかしその男は泣いてもいない。恨んでもいない。笑っているのだ。

ますますわけのわからない豊国は、思い切って隣の男にさっきの疑問をぶつけることにした。

「無二斉。お前は知らないのか?百叩きは一番軽い刑だぞ。」

「え?」

そのとき豊国に脱走を持ちかけた男が詮兵衛の元に突き出される。

そこで詮兵衛は意外な言葉を男に言い放った。

「お前の家族を呼ぶ。」

すると男は詮兵衛に媚びる様な目をして泣き出した。

「お願いです!どうかそれだけはお止めくだされ!!」

「ならん。」

詮兵衛は尚も冷たく言い放つ。

すると男は壊れたロボットのようにその場に倒れこんでしまった。


「ここに集まる人は大体文無しのやつらばかりだ。だから毎日払わなければいけない、鉱山使用料を払えない。だからつけて貰うんだ。そしてそれをあいつらが俺たちに貸してやるという形式になる。だから日に日に利子が増えていくんだ。
あいつらは銀を見つけるまで止められない。しかも銀は、お上に6割。詮兵衛に1割。係りのやつにも1割。そして食事代の付け払いで1割とられる。俺らにはいってくるのはわずかに1割・・・それもまた使用料で消えていく・・・・・・」

豊国は言葉を失った。あの男が言っていたのはこのことだったのか。

「だからここのことを皆{底なし沼}と呼ぶんだ。」


豊国はさっき聞いた事が耳に離れないでいた。

そしてやっと仕事をしようとした時、豊国はわずかに光るものを見つけた。


(第二章 底なし沼にある一筋の光 完)



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