しかし豊国は銀を見つけるどころか、仕事の要領をつかむのもままならない状態だった。
「はぁ〜」
豊国はいつしかため息をつく数が多くなっていることに気付いた。
豊国は悩んでいたのである。「これからどうすればいいのか」と。
つまり豊国は未来に希望を持てていなかったのである。
そりゃそうだろう。人間たて続けに悪いことがあると誰でも暗くなるものだ。
しかし鉱山の男たちはそんな豊国でも容赦しなかった。
「駄目浪人。」や「俺たちのほうがすごい」などと豊国に非難中傷を浴びせたのである。
豊国は気分一新を図ろうと山を降り、町へ向かった。
まちについた豊国は薬などの日用品を買い、山に戻ることした。
しかし、辺りはすっかり暗くなり、豊国は近くの民家に泊めてもらうことにした。
「おおこれはお武家様どうぞお入りください。」
そう言って快く豊国を出迎えたのが、この民家の主、七助だった。
そして、豊国は料理を馳走しそろそろ寝ようとしたところ、七助があるものに気付いたのである。
「こ、これは・・・・」
「ん?この刀がどうかなされたのか?」
「どっ、泥棒め!」
七助は短剣を豊国に向けた。
その手はわなわなと震えている。
「そっ、その剣をどこで盗んだ!」
「盗んでなんかおらん。これはわしのものだ。」
「うそをつけ!そんなものお前が持っているはずがない!」
この言葉で豊国はピンときた。
そしてその刀の鞘を抜いて、七助に見せたのである。
「この刀は亡き父の形見じゃ。山名家代々の血を受け継いだこの名刀・・・・・・」
「ま・まさかあなたは・・・・・・・・山名豊国様?」
豊国はこれまでの事情を七助に話した。すると七助は豊国に頭を下げた。
「申し訳ございませぬ!!拙者、昔山名家の足軽となっていたのです。それが戦のどさくさにまぎれて・・・・」
「逃げ出したのか。」
「はい。」
さらに七助は頭を下げ尚、こう言ったのである。
「過去の罪は償いますゆえ、どうかそれがしを取り立ててくだされ!!!」
七助は大粒の涙を流している。
そして、豊国もまたこう言った。
「もちろんじゃ。わしはそちに逢えてとても嬉しい。」
豊国もまた涙を流した。
それからの豊国は人が変わったように、精を出して働いた。
そのことで鉱山仲間からも認められるようになった。
そして月日はどんどん流れていった・・・・
豊国が山に入ってから二ヶ月がたとうとしたある日、仲間からこんな相談を受けた。
「無二斉。ちょっと話があるんだ。」
「何だ?相談っていうのは?」
「俺と一緒に、逃げないか?」
「は?」
「頼む俺に協力してくれ!!」
「わしは銀を見つけるためにここにきたのだ。なぜ止めなければならん。」
そういうと男はあきらめたような顔をして最後にこういった。
「わかった。」
翌日・・・・・・・・
脱走を企てた、二人が捕まったという知らせが入った。
その中には昨日豊国に脱走を持ちかけた男も一緒だった。
鉱山の男たちは一斉に集められた。
「よし、そこのお前!」
「はい!」
詮兵衛はもう片方の男に、ある刑を言い渡した。
「お前は百叩きの刑に処す。」
「ありがとうございまする!」
これを聞いて豊国は不思議に思った。
「なぜあの男は礼を言うのだ?百叩きの刑は重いはずだが・・・・」
ついに百叩きの刑が実行された。
しかしその男は泣いてもいない。恨んでもいない。笑っているのだ。
ますますわけのわからない豊国は、思い切って隣の男にさっきの疑問をぶつけることにした。
「無二斉。お前は知らないのか?百叩きは一番軽い刑だぞ。」
「え?」
そのとき豊国に脱走を持ちかけた男が詮兵衛の元に突き出される。
そこで詮兵衛は意外な言葉を男に言い放った。
「お前の家族を呼ぶ。」
すると男は詮兵衛に媚びる様な目をして泣き出した。
「お願いです!どうかそれだけはお止めくだされ!!」
「ならん。」
詮兵衛は尚も冷たく言い放つ。
すると男は壊れたロボットのようにその場に倒れこんでしまった。
「ここに集まる人は大体文無しのやつらばかりだ。だから毎日払わなければいけない、鉱山使用料を払えない。だからつけて貰うんだ。そしてそれをあいつらが俺たちに貸してやるという形式になる。だから日に日に利子が増えていくんだ。
あいつらは銀を見つけるまで止められない。しかも銀は、お上に6割。詮兵衛に1割。係りのやつにも1割。そして食事代の付け払いで1割とられる。俺らにはいってくるのはわずかに1割・・・それもまた使用料で消えていく・・・・・・」
豊国は言葉を失った。あの男が言っていたのはこのことだったのか。
「だからここのことを皆{底なし沼}と呼ぶんだ。」
豊国はさっき聞いた事が耳に離れないでいた。
そしてやっと仕事をしようとした時、豊国はわずかに光るものを見つけた。