ここはかの有名な生野銀山である。
ある人はそこを「この世の負の遺産の塊」と言い、またある人はそこを「人間の本能の結晶」とも言う。
つまり「億万長者になりたい男たちの戦場」なのである。そこに大金を求めある男がやってきた。
「ふう・・ここまでどれぐらい歩いたんだ?」
額から滴り落ちる汗を拭きながら、生野銀山を眺める。
この山を見て男は何お考えているのか・・・
その男の名は山名豊国。かの有名な山名家の末裔。
しかしそんなことも、もう役に立たない。信じられるのは自分しかいないのだから。
「おう、山に入るのか?」(銀山=山)
そう豊国に話しかけてきたのは、この銀山の管理者の大里詮兵衛だった。
「そのとうりだ。一山当てたいんだ。」
「そうかい。で、あんたはその格好からして公示掘削者じゃねいな。」
「公示掘削者?」
つい聞いてしまった豊国は少々まずい顔をした。
「あんたなーんもわかっちゃいねーよーだな。教えてやるよ。」
「・・・・・・・
この男の説明は長くなりそうなので代わりに説明させていただこう。
この銀山を平定した羽柴秀吉は掘削者を大きく二つに分けたのである。
一つは「公示掘削者」これはお上たちが派遣した掘削者つまり発掘隊である。
重労働だが飯は食えるし金が出たら分け前がもらえる。当時ではなかなかいい職業だった。
もう一つは「私事発掘者」重労働なのは前者と変わらないのだが私事発掘者の苦労はこれだけではない。
飯は一度だけ。毎日鉱山発掘料を支払わなければならず、金が出ても六割はお上に納めなければならない。
それでも私事発掘者は後を絶たない。
またある男が金を見つけても横取りするというのもしばしばだった。
このことから最初にも記したことが言われるのがお分かりいただけただろうか。
「わかったか?おい」
「あ・・・ああわかった」
豊国はボーっとしていたのではない。考えていたのだ。
「本当にこれでいいのか。」と。
当時、鳥取城の城主だった豊国は娘を人質に取られただけであっさりと降伏してしまった。
重臣からは批判が相次ぎ、離反者も出てくる始末・・・豊国は何をすればいいかわからなかった。
そして・・・・豊国は鳥取城を単騎で脱出。
「山名の名が残せるのなら」豊国は自分なりに考えた結果だった。山名の名が永久に汚点が残ったことも知らずに。
そしていつしか足はこの生野銀山に向かっていた。
「生きなければ・・・・しかし金がない。そうだ金なら鉱山がある。生きなければ・・・・生きなければ・・・」
「よしここに名前と出生国を書け」
詮兵衛は豊国に一枚の紙と筆を差し出した。
豊国の腹は決まっていた。そしてすらすらと紙に書き出した。
「名 工藤 無二斉 出生国 長門国」
「おしわかった。じゃあそこにあるつるはしを持って行け。昼は係の奴が銅鑼で合図をする。あと折れたら底にある短刀で削れ。わかったな。」
「わかった。」
豊国は木製のつるはしをもらった。
「しかしお武家様がここに来るとは世の中も変わったもんだ。」
そんな詮兵衛のつぶやきも聞かずに豊国は歩き出した。
豊国は歩きながら必死に考えた。
これからのことをそして、工藤無二斉としての生き方を。
そして・・・・・豊国の第二の人生がゆっくりと静かに始まった。